GPSなしのトランスポンダー
古い機体、一部の軍用機、GPSが妨害されている空域を飛ぶ機体は、位置を送らないか、でたらめな位置を送ります。それでもトランスポンダーは応答します。地上のレーダーはすべての機体に識別と高度を問い合わせ続け、トランスポンダーはそのたびに応答します。その応答は、問い合わせたレーダーだけでなく、周りのすべての受信局に聞こえます。
機体の位置を割り出すには、それで十分です。この方法はマルチラテレーション、略してMLATと呼ばれ、航空交通管制で何十年も使われてきました。大きな空港ではレーダーが見えにくい建物の間を走行する機体を監視し、山あいの谷では尾根の向こうを見られないレーダーの代わりを務めています。
時間差から位置へ
電波は光の速さで進み、100万分の1秒でおよそ300 m進みます。ある応答が受信局Aに受信局Bより100万分の3秒早く届いたなら、機体はBよりAにおよそ900 m近いことになります。
それだけでは場所は分かりません。ちょうどその時間差になる場所をすべて集めると、地図上で1本の曲線になります。2組目の受信局のペアから2本目の曲線が得られ、機体はそれらが交わる所にいます。高度は計算する必要がありません。機体が自分の応答の中で報告しているからです。それでも、間違った交点を見抜くには4つ目の受信局が一番です。
難しいのは時計です。ベランダの受信局には原子時計がなく、何キロも離れた2つの受信局の時計は絶えずずれていきます。答えは頭上を飛んでいます。自分の位置を報告している機体はどれも、動く基準点です。それがどこにいて、各受信局がいつそれを聞いたかが分かるので、その瞬間に受信局どうしの時計がどれだけずれているかが分かります。黙っている機体は、よくしゃべる機体を物差しにして測るのです。
計算よりネットワークが大事な理由
100万分の1秒は300 mです。だから受信局の時計は100万分の1秒単位で一致していなければならず、そうでなければ時間の誤差がそのまま位置の誤差になります。アンテナの位置も正確でなければなりません。
配置も同じくらい重要です。受信局が一列に並んでいると、曲線は浅い角度で交わり、わずかな誤差で交点が何キロも動きます。機体を取り囲むように受信局があれば、交点ははっきり決まります。だからMLATがうまくいかない場所の理由は、たいてい単純です。近くの受信機が少なすぎるのです。10月1日の朝、参加していた158局のうち59局には、同じ機体を聞いている隣の受信局がまだありませんでした。
そこで受信局ネットワークのページでは、いまの受信局で足りる場所を示し、2種類の異なる助言を出します。受信局の数がまだ足りないのか、数は足りていて反対側に1局足りないのか、です。
運用者の入力ミスも考えました。アンテナの位置が実際の場所と合っていない受信局は、自分が加わるすべての交点を引っ張ってしまいます。そうした受信局は計算から外され、私たちのアカウントを持っていれば運用者にメールが届きます。接続はそのまま保たれるので、位置が直った瞬間にそれが分かり、計算に戻せます。
妨害の中を通るきれいな線
試験運用は9月7日に、本運用は9月14日に始まりました。航跡の上では、計算で求めた位置は中空の玉で描かれるので、機体自身が報告したものと私たちが計算したものは常に見分けられます。
9月13日、ハンガリー上空のエアバスが、5分のうちに400 km近くルーマニアへ飛んでは戻る位置を報告しました。同じ数分間、私たちの受信局からの90を超える位置は、普通の巡航速度で途切れのない線を描いていました。こういう瞬間、地図上では線が勝ちます。機体のほうも手を貸してくれます。自分の位置を信用していないときはそう知らせてくるので、その瞬間に私たちの受信局が新しい測位を持っていれば、地図は受信局を信じます。
速度にも同じ注意を払っています。計算で求めた機体が再び現れてからしばらくは、速度を空欄にします。そのほうがましなのです。そうしないと、時速約150 kmで巡航するセスナが、データの短い途切れから戻ってきたときにジェット機の速度を表示してしまいます。
ある地域で最初の受信局は、時計が壊れているわけではありません。まだ隣がいないだけです。